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DR.WEIL’S GRACEFUL DAYS
ワイル博士のグレイスフルデイズ

グレイスフル(Graceful)
「潔い」「優雅な」「気品のある」などの意味。ワイル博士が語る、人に本来備わっている自然治癒力や免 疫力がいきいきとはたらくための潔く優雅な日々の送り方。

アンドルー・ワイル

医学博士。1942年アメリカ・フィラデルフィア生まれ。アリゾナ在住。アリゾナ大学医学校・統合医療プログラム部長。西洋医学と代替医療を統合する「統合医療」の第一人者。『癒す心、治る力』『ヘルシーエイジング』『ワイル博士のうつが消えるこころのレッスン』(以上角川書店)など著書多数。
オフィシャルホームページ:http://www.drweil.com/



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「現代医学を利用するとき」 緊急的な治療と根本的な治癒を上手に使いわけるために


(翻訳 上野圭一)

体調を崩し、回復するための方策を決めなければならないような事態に見舞われる。生きている以上、それは誰にとっても、けっして珍しいことではありません。そんなとき、わたしたちは常識やそれまでの経験、直観などの力を借りて自分の症状を分析し、症状が深刻なものか否かを判断して、医師に相談すべきかどうかを決定します。しかし、医師といっても、どの医療の医師に相談すべきなのか、迷ってしまうことがあります。今回はそのあたりの事情を少し整理しておきましょう。

現代医療(西洋医学)は、たいがいの人がふつうの病院や診療所で経験している種類の医療です。それはもっぱら人間の身体に着目し、合成薬剤や外科手術、放射線などの侵襲的な治療にほぼ全面的に依存する、いわば「病気の管理システム」です。
代替医療は鍼灸やホメオパシーから虹彩診断にいたるまで、多種多様な治療法を含む幅の広い医療です。代替療法はおおむね自然療法に近く、現代医療よりは侵襲度が低いと考えられます。科学的な根拠をもつものもあれば、科学では説明できないものもあります。代替療法が現代医療と混ぜて使われる場合は、よく「補完医療」と呼ばれることがあります。

わたしは統合医療を標榜している医師のひとりです。統合医療は「病気の管理」にではなく「治癒」に主眼を置き、食生活やライフスタイル全般に注意を払うなど、人間の全体(身体性・精神性・霊性)を考慮する医療です。統合医療はまた、患者と医療者とのあいだの治癒的な関係を重視し、健康の増進と病気の予防にも力点を置いています。

統合医療は現代医療を否定しているわけでもなければ、代替医療を無批判に受容しているわけでもありません。患者のためになるのであれば、現代医療の医師や代替医療の治療家が最良だと思う治療を施すことに異論はありません。統合医療は医療の専門科目のひとつではなく、荒廃した今日の医療を、人間関係や自然治癒力をなによりも大切にした、医療のかつての姿に戻そうとする試みのひとつなのです。               

統合医療の専門家として、わたしは重症の外傷にたいする現代医療の卓越性を大いに認めています。自分自身が交通事故で重傷を負ったら、シャーマンやイメージ療法のセラピストや鍼灸師のところにではなく、ただちに設備の整った現代医療の病院に搬送してもらうことを望むでしょう(でも、危機的状況を脱したあとなら、自然治癒力の発動を促進するために、それらの代替療法を受けるかもしれません)。
現代医療が断然すぐれている分野はほかにもあります。虫垂の破裂や心筋梗塞、細菌感染などにたいする緊急的な外科手術や薬物療法、ホルモン系の異常を含む複雑な病態の診断などが、そのすぐれている例の一部です。現代医療の効果は全体的には高得点とはいえませんが、ウイルス感染や慢性変性疾患、多くのアレルギー症状や自己免疫疾患などにもきわめて有効なのです。

結論をいえば、つぎのようになります。経験したことのないような激しい痛みとか、長くつづく苦痛など、これは尋常ではないと思われる症状が出たら、すぐに現代医療の医師に相談してください。ふだんは現代医療を嫌っている人でも、右にのべたような、現代医療が得意とする分野の病状だと感じたら、代替療法の治療家ではなく、まず現代医療の医師に相談する必要があります。
そして病状が緊急事態を脱したら、そのときは人間の複雑性と多様性を理解している統合医療の医師と治癒的な関係を築くことをはじめてください。自然治癒力を信じ、一方では現代医療の利点も心得ている統合医療の医師は、表面にあらわれた症状の説明だけではなく、病気の根本的な原因を探り、それを自分で修正する方法を教えてくれるでしょう。